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MINIMAL SLOPE

 

 

 

 

 

 

大きなスーツケースにお手製の服をめいっぱい詰め込んで、秋田からやってきた。MINIMAL SLOPEのネームがついた服を、休業日の柿乃葉で初めて見せてもらった。秋田県小坂町で生まれ育った小林さんは、今現在も拠点を変えずにその地で生活をしながら服を作っている。MINIMAL SLOPEのブランド名も生まれ育った町“小坂”からそのまま拝借したそうだ。“その地でしか作れない服、自分にしか作れない服”に強いこだわりを感じる。自分のためだけに服を作りたかった10代、そして20代になると幾つもの縫製工場で働きながら服作りの基礎を身体で覚えていく。その延長線上で必然的に始まった服作りは、デザインもパターンも言わば独学。古着を買っては解体してを繰り返する中で、先人達が残した知恵や手仕事に取り憑かれた。2017年にMINIMAL SLOPEをスタートし、40代に差し掛かる現在も全ての服を自宅件アトリエで作っている。築100年、かつてのお座敷の上に8台の特殊ミシンを配し、デザイン、パターン作成、生地選定、裁断、染色、縫製、仕上げまでの全てのプロセスを1人で行っている。そんな狂気的な脳みそから作られる服がどんな物なのか、興味を抱かない訳がなかった。この人と服作りしてみようと決めた理由が、染めと色出しに対しての熱い考えによる。ある時は草木染め、ある時は合成染料、目指す服の着地点を見極め、様々な染めテストを行い自ら色出ししている。そして、小坂の奥地にある野湯“八九郎温泉水”で媒染するという、彼の環境だからこそ実現可能なオリジナル焙煎を聞いて刺さってしまった。媒染=定着剤だが、炭酸ガスを含み鉄分の豊富な“八九郎温泉水”は媒染するに適していると言う。全ての服に袖を通させてもらったが、小林さんの手持ちの中で最も気に入った服がコートだった。ここの所、アウターはショート丈ばかりで長丈ものは自宅ラックの奥に追いやられていたから、自分でもこのチョイスは驚きだったが、小林さんが作るスノーパーカは今すぐにでも着たいと思えるバランスを備えていた。後で聞くと、小林さん自身も1番のお気に入りで自信作だと言う。元ネタとなったのはスウェーデン軍のスノーパーカで、ディテールを採取しながらも、独自パターンと異常な作り込みで再解釈し仕立てられていた。身幅を大きく取り、さらにバルーン型にしている。腰につくドローコードをギュッと締め上げた時に大きく印象が変わり、ギャザーが美しく出るように設計されていた。

 

 

 

 

 


今回、柿乃葉だけの特別仕様はいくつもあるが、最も分かりやすいのが共生地でのパーツ配色。袖を長めに取ってもらい、折り返した際にカフス裏から印象的な色が出てくるイメージを伝えた。さらに、大きめのフードの内側など幾つかのパーツを配色にしている。このアプローチは本来のMINIMAL SLOPEらしい感性とはズレる部分だと思うが、ミリタリーやビンテージなど古いものをベースにした服であれば、僕は尚更、ファッションとしての面白さや遊びを加えたくなる。シンプルにデニムに羽織っただけだとしても、適度な癖があって自分の個性になるような服がやっぱり楽しい。

 

 

 

 


生地と配色、染めについて。2色展開で、まずはLemongrass。元々のボディは生成りのカサッとしたコットンヘンプウェザー。着込み、洗い込むほどに奥行きのある陰影を宿す。この生地をレモングラスで染め、仕上げに八九郎温泉で媒染。温泉の鉄成分が反応し、うっすらと緑がかったクリームレモンに染まっている。さらに同生地をマリーゴールド染め、アルミ媒染した、比翼裏、フード裏、カフス裏、内ポケットなどの配色パーツ。草木染めならではのくすんだ渋みのあるイエローに染め上げた。裏地は肌滑り良く、袖通しが心地良いコットンシルクのタイプライターで、これはレモングラス染めにアルミ媒染を施して、柔らかなパステルイエローになる。コートを裏返しにしてみると濃度は違えど、イエローのグラデーションで構成されている。これらの3つの異なる染めと媒染は、生地の段階で小林さん自身が手作業で染めたものであり、それらを最後に組み合わせる形でミシンを踏んで服としていく。途方もない手間と作業時間の心配をしてしまうが、やはり月に5、6着程度の制作が限界値と言う。

 

 

 

 

 


そしてLogwood。ボディはコットンヘンプウェザーのネイビー。ログウッドで染め、鉄媒染。それだけだと綺麗すぎる印象だったので、さらに松の木を燃やした松煙で重ね染めしている。この多重染色によって鈍い光沢を持った黒に程近い墨色となる。ここから着込んで洗いを重ねていくことで、ネイビーが徐々に顔を出してくる楽しさも含んでいる。配色パーツは同生地ネイビーを八九郎温泉水で縮絨。風にさらして乾燥、酸化させる工程を数回繰り返し、赤みを備えた深いネイビーに仕上げた。裏地はコットンシルクタイプライターの生成り色を控えめにログウッド染めし八九郎温泉媒染したもので、薄いグレー系に。ウエストやフードのコットンドローコードは、茶染めし松煙を重ねており、趣のある色の変化が見て取れる。真鍮製のハトメも燻して古びた表情を出している。

 

 

 

 

 


元ネタとなったスウェーデン軍のスノーパーカはボタン数が多い。MINIMAL SLOPE版でも1つのコートに18mmサイズのものが21個もついている。レモングラスは白の水牛ボーン(骨)ボタンに、内ポケットボタンのみアワビ貝。ログウッドは黒の水牛ホーン(角)ボタン、内ポケットにメキシコアワビ。服の中に静かに馴染ませるようなチョイスだが、そのままじゃ草木染めしたシェルとの波長が合わない。火の力を感じる焼き物のような質感を求めて、21個のボタンの1つ1つを個体差が出るようにロウソクで炙っている。そもそも焼き加工をメーカーに頼むことが出来るが、仕上がりが綺麗すぎて味気なく、バーナーで炙ると火が強すぎて細かいニュアンスが出しづらい。色々試して辿り着いたのが火が小さなロウソク炙り。こんな非効率極まりない仕事の集合体がMINIMAL SLOPEである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベースモデルから様々な仕様変更を行ったが、さらにサイズバランスも見直している。コートとしてはやや短めの着丈に変更。子供と遊ぶ時も邪魔にならなかったり、寒い時期にちょっと車を運転したり電車に座る際も“着たまま”が成立する丈感に。ボトムスの主力にフレアや細みのものが増えていることもコートとの相性の点で間違いないが、長すぎないことはドレトラなどワイドスラックスも合わせやすくなる。そしてやはりレイヤーの観点から、アームホールから袖先にかけて太くしてもらった。春や秋にTシャツやシャツの上から羽織れるバランスを持ちながら、寒くなったらレザーやGジャン、ツイードJKT、インナーダウン、フリースなんかも中に仕舞い込んで、オーバーコートとして羽織れるよう整えた。Lemongrass、Logwoodとどちらの色も草木染めで色ムラや斑点など見られ、その時の環境によっても個体差が生じる。また、媒染に使う温泉成分も季節により変化するので、1点1点の異なる個性としてお楽しみいただければと。生地の経年変化としては、どちらも縫いジワが際立ってパッカリングが引き立ってくる。草木染めの奥深い経年美化を含めて、楽しんで育てていただければ幸いです。サイズはMで後丈94.5、前丈83、身幅82.5、肩幅75、袖丈50.5。Lで後丈96.5、前丈85.5、身幅85、肩幅76、袖丈53です。染色や加工過程により個体差が出ることがあります。僕(177/68)の着用はどちらもLサイズ。Mでも着れました。下に何を着るか、どこまでのシーズンを(レイヤーを)見据えるか、袖を折り返したり、ウエストは絞ったりと自分に合うバランスに近づけていけるオーバーコートです。是非、金土でのフィッティングをお勧めします。金土に店頭受注、日曜に商品帖受注で〆となります。詳しくは、下記をご覧ください。

 

 

 

 

<店頭受注>
6.27 Fri / 12:00 – 17:00
6.28 Sat / 12:00 – 17:00
着用できるサイズについて。LemongrassはMとL、LogwoodはLをご用意しています。今展はアポイント制ではなく、自由にご来店可能です。混雑状況により少しお待ちいただく可能性がありますので、時間に余裕を持ってお越しいただけると幸いです。お支払いはクレジットか現金の選択、前金8万円(税別)か全額の選択が可能です。前金お選びの際は、商品到着時にメールでのクレジット決済、または銀行振り込みで残金をお支払いいただき商品発送となります。

 

 

<商品帖受注>
6.29 Sun / 12:00 – 23:00
上記の時間、商品帖受注が可能です。23時に自動で締め切ります。店頭受注と同じくクレジット、銀行振込の選択が可能ですが、銀行振込の方は6.30月曜12時までに振込みいただける方のみお選びください。こちらも、前金8万円(税別)の選択が可能です。先着順で分納になる可能性がありますのでご了承ください。

 

 

<納期について>
月に5、6着の製作が限度ということで先着順での分納を予定しています。現段階では9月上旬が最初の便、2便目を10月下旬を予定していますが、受注数によってさらに納期が後退する可能性があります。店頭受注の方から優先的に作る形になります。早めの納期を希望される方は、商品帖でも早めに受注ください。

 

 

<洗濯と保管について>
草木染めを多用した商品です。洗濯する際は単独手洗い、洗剤は中性洗剤で。塩素系(漂白剤)、石油系は厳禁、ドライクリーニングもNGです。小林さんのおすすめは、“ウタマロリキッド”を水で薄く溶かして、押し洗い、陰干し。日光を避けて保管してください。

 

 

 

 

 

 

 

 

25.6.27 Fri – 6.28 Sat / 12:00- 17:00 @柿乃葉
25.6.29 Sun / 12:00- 23:00 @柿乃葉商品帖

Order Event
– Ex Snow Parka –
Shell / Cotton Hemp Weather – Cotton50 Hemp50
Parts / Cotton Hemp Weather – Cotton50 Hemp50
Lining / Cotton Silk Typewriter – Cotton95 Silk5
Lemongrass / Logwood
M / L
176.000 tax in ( 160.000 )
Delivery Date / Early September – Late November 2025
MINIMAL SLOPE